空に還る日6

お待たせしました…。
とりあえず1話UPです。ちょっと強引に松岡さん登場です(爆)



【空に還る日】〜6〜


それから俺は、行動を開始した。
シゲのために出来ること…一つだけ見つけたから…。


でも、俺だけじゃどうにもならないから、タイチに協力してもらった。
タイチもシゲに何かしてやりたい気持ちは同じようで、二つ返事でOKしてくれた。



余計なことって言われるかもしれない…。
でも、それしか思いつかなかった。


それに、やらずに後悔するよりは、やって後悔した方がいい…。


タイチは次の朝には情報を持ってきてくれた。


「山口くん、わかったよ、名前」
「よかった。で、住所は?」
「たぶんここら辺だと思うんだ。茂くん、よくここら辺にいたから…」
「そっか…じゃあ後は自分で探すよ」
「オレ、仕事の合間に探してみようか?」
「いいよ。タイチには充分やってもらったし、あんまり動くとシゲにバレるだろ?後は自分の足で探すよ」
「…わかった。じゃ…戻るわ」
「うん。ありがとう」
「…アンタのためにやったワケじゃねーよ」



素直じゃない天使を見送った後、俺はすぐに家を出た。
タイチがくれたメモを頼りに、ある場所へと向かう。
俺の住んでいる場所からは少しかかるけど、北海道とか沖縄とかものすごい遠くでなくてよかった…。





――……
まだ畑や田んぼが残っているような、静かな町…。
その町につくと、タイチがくれたメモと地図を頼りにある場所に向かった。





“松岡雪菜さん”
それが俺が探している人の名前。
シゲの…大切な人だ…。


シゲの代わりにシゲの想いを伝える。
それが、俺がシゲのために出来ること。


一度も伝えられなかった気持ち。
10年以上見守り続けるほどの…強い想い…。
それこそ未練残ってるはずじゃないか?


俺がそれを叶えてやれたら…。
いきなり行ったら怪しまれるかもしれない。
でも…なんとなく思うんだ。雪菜さんはきっとわかってくれるんじゃないかって。
なんとなくだけど…シゲの…好きになった人だから…。




「ここら辺のはずなんだけどな…」
狭い路地裏を歩きながら、一軒一軒、表札を見ていく。
タイチの地図によるとこの辺のはずなんだけど…。


『ワンッ!ワンワンッ!!』


「おわっ!!」
突然、横から吠えられて、驚いて尻餅をついてしまった。


「いって…なんだよお前」
黒いもじゃもじゃの犬。繋がれたリードを目一杯伸ばして吠え続けてる。


「ったく…あ」
ふっと、視界を上に移して気がついた。
“松岡”の表札…。



「あった…」
小さな古い一軒家。
ここだ…。
ここに彼女が…。



気を取り直して立ち上がる…とその時…。
ガチャッと音を立てて、ドアが開いた。


やべぇ…ど、どうしよう!
さすがに心の準備ってもんが…。


俺は咄嗟に塀の影に隠れてしまった。



「どうした、ジャズ?」
男の声…?


そーっと覗き見ると、玄関先に背が高くて端正な顔立ちの男が立っていた。
犬はなおも吠え続けている。


「誰かいんの?」


やべ…っつーか、これで怪しまれたら元も子もねぇ…。
覚悟を決めて、彼の前に歩み出た。



「あの…こんにちは」
「…どなたでしょう?」
「山口っていう者なんですけど…松岡雪菜さんって…いらっしゃいますか?」
「姉の知り合いですか?」
「知り合いというか…雪菜さんの友達の友達です」
「なんのご用でしょう?」
「ちょっと…友達から言付かった事があって…」
「伝言?」
「はい」
「姉さん、今留守ですけど…伝えておきましょうか?」
「あ、いや…」
「…?」
「出来たら、直接伝えたいんで…何時頃帰ってきますかね?」
「…失礼ですけど、その友達って姉とはどういう関係なんでしょうか?」


明らかに怪しまれてる…。
彼のいう事は尤もだ。そして俺はそれに答えられない…。
でも、諦めるわけにはいかないんだ。


「…っ!お願いします!友達は今どうしても来られない状態で…でもどうしても伝えたい事があるんです!雪菜さんに会わせて下さい!」


彼に向かって頭を下げた。
それでダメなら土下座だってする覚悟だった。
すると、彼は意外な事を言った。



「もしかして…あの天使の知り合い?」


え…?今なんて…?


「あ、いやごめん。んなワケねぇか…」
「シゲのこと知ってるのか?!」
「シゲ…?あの茶髪の若い男の天使?」
「見えんのか?!っつか、知ってるの?!」
「話したりしたことは無い…けど、時々見かける」


マジかよ…俺のほかにも見える大人がいたんだ…。


「やっぱ、来てるんだ?」
「うん。姉さん達と暮らし始めてから、見るようになって…。最初は迎えにきたのかってビビったけど、そういう気配もないし…見守ってくれてるのかな…ってなんとなく思ってた」
「そっか…」
「あの人、姉さんの昔の恋人とか?」
「恋人じゃないけど…施設で一緒にいた幼馴染みたいなもんだって」
「そうなんだ…。姉さん今も時々話すよ。今は虐待とか多いけど、姉さんのいたとこは良い所だったって」
「君は一緒じゃなかったの?」
「ああ…うちの親、再婚同士でさ、俺と姉さんは連れ子同士なの」
「そっか…ごめん、変なこと聞いて…」
「別にいいよ。事情は複雑だけど、今はみんな幸せだから」


そう言って微笑んだ彼の顔が全てを物語っていた。
きっと…雪菜さんもすごく素敵な女性なんだろうな…とそんな事を思った。


「で、あの人から伝言なの?」
「うん、まぁ…」
「…あの人、天使なんだよね?」
曖昧に頷くと、彼がちょっと考え込んで言った。


「うん?そうだよ」
「フツーに話してたけど、天使から伝言って普通は有り得ねぇことだよなぁ。すごいね、俺ら」
「ぶっ…」
真剣な顔して何を言うかと思えば…。


「っはははは!」
「な、なに?なんで笑うのさ?!」
「ごめんごめん(笑)でも、そうだよな。天使だもんな」


拗ねたように口を尖らせる彼。見た目に似合わず可愛いとこもあるんだな、コイツ。



「あ、ねぇ。じゃあ、上がって待ってる?姉さん、夕方には帰ってくるはずだし」
「いいの?」
「うん。いろいろ話聞きたいし」
「じゃ…お邪魔します」





お言葉に甘えて待たせてもらうことにした。
その間、いろいろと話をした。
彼の名前は昌宏。背ぇ高いし、大人っぽく見えたけど、まだ高校生だっていうから驚いた。
堂々とタメ口使いやがって…。でもどっか憎めねぇんだよな…。


俺が雪菜さんに会いに来た理由を話すと、昌宏は少し考え込んで言った。
「…今さらそれ言ってどうなるの?」
「どうって…ただシゲがいなくなる前に伝えたいって思っただけだから…」
「万が一さ、姉さんが結婚やめたりしたらどうする?」
「まさか!」
「可能性はあるじゃん。そしたら、シゲルくんは悲しむだろうし…姉さんも幸せになろうとしてるんだから、そこでわざわざ余計なこと言う必要ないんじゃない?」
「余計って…」
「言わなくても、姉さんも俺と同じように、あの人のこと何か感じてると思うし」



そう言われると、返す言葉がなかった…。
今までシゲの事しか見えてなくて…俺がしようとしてるのは、他人の人生に関わることなんだと初めて気がついた。
シゲに会わなかったら、この家に来る事もなかった。昌宏に会う事もなかった。
もしかして俺…とんでもない事してる?
こんな風に運命を捻じ曲げて…シゲと俺が関わったことが天界にバレたら…。




「ごめん…俺ちょっと頭冷やしてくる…」
「ちょ…山口くん?」



ふらふらと立ち上がって松岡家を出た。
俺はどうしたらいいんだろう…どうするべきなんだろう…。



まだ肌寒い風に吹かれながら、当てもなく歩いた。
ぐるぐると考えを巡らしながら…ただ歩いた…。






「教会…?」
ふと横を見ると、小さな教会があった。
雪菜さんもここで式を挙げるんだろうか…。


そんな風に思った時だった。



「あれ…?」
タイチ…?



教会の屋根の上。
座り込んでいるのは、タイチだった。


そして、名前を呼ぼうとして気がついた。
俯く彼が、ひっそりと…泣いている事に…。