SHIGERU BIRTHDAY ANNIVERSARY

【hand in hand】


―声がする…。
どこかで…ボクを呼ぶ声が…。



真夜中。
不意に目が覚めた。
真っ先に目に入ったのは、暗闇に包まれた見慣れた天井。
そして…低く唸るような…声…。
それが隣で寝ている男のものだと、すぐに気づいた。


昨日は2人でロケをして、そのあと飲みに行った。
久しぶりに2人きりで飲んで、食べて、語り合って…。
すっかり楽しくなってしまい、ボクの家に場所を変えて飲み明かす事になった。
結局、眠りについたのは2時3時だっただろうか。
せっかくだから…と布団を2組敷き、枕を並べて床に就いた。


「山口…?」
そっと起き上がり、隣の布団を覗き込んだ。
「う〜…ん…」
低い唸り声を上げ、体をもそもそと動かす。
こっちに背を向ける形になっていたため、顔は見えなかったけれど、苦しそうなのがすぐにわかった。
嫌な夢でも見ているんだろうか?それともどこか具合が悪いのか?
心配になり、起こそうか…とそっと肩に触れた。
「ん…」
と、同時に山口が寝返りを打ち、ボクはびっくりして慌てて手を離した。
そして、その顔を見て、ハッとした。


山口の切れ長の瞳から、すうっ…と、一筋の涙が零れ落ちていた…。



山口が…泣いている…。


とても、悲しそうな…辛そうな…表情で…。


コイツのこんな姿…初めて見た。


まだTOKIOなど影も形もなく、食いつないで行くだけで精一杯だった頃。
もう辞めたい…と、泣きついてきた事もある。
初ライブのステージの上で、感動の涙を流した事もある。
山口の強く優しい笑顔の裏に、そんな涙もあった事を―だからこそその笑顔がある事を―ボクは知っている。


だけど、夢を見ながら泣くなんて…。


よっぽど哀しい夢を見ているんだろうか?
それとも、何か悩み事があるのか?
もしかしたら、何かとても辛い事を抱えているのだろうか?


いつも…心のどこかで思っていた。
山口は、強くて逞しくて優しくて…めちゃくちゃ頼りになる。
TOKIOの相談窓口で、ボクも他のメンバーも、山口に何度助けられたかわからない。
だけど、彼が辛い時は?
誰が…支えてくれるのだろう?
山口にだって友達はいる。両親や、兄弟もいる。
メンバーの誰かに相談する時もあるだろうし、もちろんボクに相談してくる事だってある。
けど、もしかしたら…。
いつも頼りにされる側である故に…言い出せなくなってしまう事も、あるんじゃないだろうか…。



ボクは手を伸ばすと、投げ出されていた山口の右手を、そっと握った。
その手がピクリと反応する。
険しかった表情が、心なしか和らいだ気がした。
その変化に少しほっとして、手を繋いだまま、ゆっくりと横になった。
ボクも右手を出していたため、うつ伏せの状態になった。
枕に顔をうずめ、山口の顔を盗み見る。
その顔は、ほんの少し微笑んでいるように見えた。
ボクは安心して、そのまま眠りの世界へと、落ちていった…。


朦朧とする頭でふと思った。
ああそうか…さっきボクを呼んでいたんは…山口やったんや…と…。
それでいい。
本当にどうしようもなくなったら…ボクを呼んで…。
手を繋ぐぐらいしか出来んけど…絶対に…離したりしないから…。


――…


朝。
いつものように6時きっかりに目が覚めた。
自分の寝起きの良さと、体内時計の正確さに感心しつつ、何回か瞬きをした。
その時、右手にほのかなぬくもりを感じ、ふと横を見た。
「シゲ…?」
体を丸め、固く目を閉じ、ぐっすりと眠っているシゲ。
その右手は、しっかりとオレの手を掴んでいた。
なんでだ…?寝ぼけて?シゲから?まさかオレから?
実はシゲはそういう趣味だった…なんてあるわけねぇよな…。
と、瞬時にあらゆる可能性を考えた。


「あれ…?」
何かが頭をかすめた。
そういえば…夜中に何か…あったような…。
そうだ…夢を見てたんだ…思い出せないけど、何かとても怖ろしい…夢…。
けど、突然何か…とても暖かい感じに包まれて…そんで…悪夢が消えた…。


もしかして…。


隣でぐっすりと寝こけている男を見る。
まだ起きる気配は全くなかった。
オレはそっとシゲの手を外すと、すっかり指先の冷えているその手を、布団の中にしまった。


「…サンキュ」
その寝顔に、そっとつぶやく。
起きてからじゃ、絶対に言えないだろうから…。


そしてもう一度、布団に潜り込む。
たまには朝寝坊するのもいいかもしれない。
この人と…一緒なら…。



「おはよぉ…」
「おはよう…」
「よう眠れたか?」
「おかげさんで…」



fin


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茂さんバースデー記念という事で…。その割に日付け変わる直前ですみません^^;
微妙に山口さんの方がメインっぽいのは、大目に見て下さい…(爆)
前にシゲフェス用に書いてたら、「昼間のリセッタ」と「夜のリセッタ」ができた、と言いましたが、それの夜の方です。
昼間の方はグダグダで全然オチもついてなかったんで^^;