【空に還る日】〜8〜

今さらかもしれませんが…ようやく最終話でございます(汗)
結局、1年以上かかってしまいましたね。。(苦笑)
待っててくださった皆様には本当に申し訳ないです。


【空に還る日】〜8〜



(達也…)


…誰?


(いつか…また会おう…)


え…?


(必ず…出会えるから…)


アナタは…誰…?


(それまで、自分は自分らしく…強く…生きて…。達也は達也のままで…いいから…)


俺の…ままで…?


(さよなら…)


え?ちょっと…。


(またなぁ)


待って…!



――…



ピッ―ピッ―ピッ―…。
何か音がする…。
機械の音…?それに…薬のような匂い…。
体の下…なんだか柔らかい…これは…ベッド?


色々な感覚が、ゆっくりと戻っていく。


ぼんやりと目を開けると、真っ白い天井が目に入った。


「達也?!」
「お前、わかるか?!」


視界に飛び込んできたのは、父さんと母さんの青ざめた顔…。
あれ…俺どうしたんだっけ…?
ここは…病院…?
なんでこんな所で…。



「達也…?」
母さんが俺の手を握る。
握り返そうとしたけど、思うように力が入らなかった。


「母…さ…」
声も出ない…。
それでも、俺の意識がハッキリしているのはわかったらしく、みるみるうちに目に涙が溜まっていく。


「達也…もう大丈夫だからね…!」
「おい、誰か早く来い!達也の意識が戻ったぞ!」



母さん…そんなに泣かないで…。
父さん…病院で怒鳴らないでよ…。



でも…ありがとう……。







―…
『大学の屋上から落ちて意識を失っていた』


そう聞いて、俺はまた意識を失うかと思った。
だって、屋上だぜ?!
うちの大学の屋上っつったら10階以上の高さ…そこから落ちたなんて…信じられない…。
だって俺は数箇所ほど骨折しただけで、脊椎や脳など重要な部分には異常はない。
木や植え込みがクッションになったとはいえ…そんなこと有り得るだろうか…。
医者も奇跡だって驚いてたけど…誰より驚いて戸惑ってるのは俺だ。



どうして落ちたりしたのか…。
そもそも何のために屋上に行ったのか…。
全く覚えていない…。



医者は、落ちた衝撃で記憶喪失状態になっているのだろう…と言っていた。
両親は、俺が何か追い詰められていたんじゃないか…って心配してくれている。
普通はそう思うよな…。
でも、そんな心当たりも全く無い。
俺は普通に大学生活を送っていただけだ。
勉強してバイトして友達と遊んで…で…。


あれ?
それだけだっけ?
それだけ…だよな…。
なんだろう…何か…忘れてる気がする…。
何か…大事なこと…。



ダメだ…思い出せない…。
何かとても大切なものがあった気がするのに…。



そんなもどかしさを振り切るように、明るい窓の方に目を向けた。
病室の窓から見えるのは、青く澄み渡った空に、時折、形を変えては流れていく雲…。
ぼんやり眺めていると、なんだか癒される気がした。



ふと…意識を取り戻す前の、あの夢のことを思い出した。
いつかまた会おうと言ってたいた、あの声…。
優しくて温かな…声…。
よく知っている気がするのに思い出せない。誰なんだろう…。
最後にノーテンキな声で「またなぁ」って言ってたな。
またなぁって…。



不意に、切ないような温かいような気持ちがこみ上げ、視界が曇った。
頬に熱いものが伝う。
何故なのかわからない…。
ただただ涙が溢れて止まらなかった。



あの声の主にはもう会えないのだ…と、心のどこかでそんな事を思っていた…。






―…
それから数ヵ月後、俺は無事に退院し、日常生活へと戻った。
記憶は戻らないままだったけど、屋上のヘリが壊れていたことと、その前のフェンスの一部が壊れていたことで、事故だろうと片付けられた。
心配された後遺症もなく、無事に大学を卒業して会社に入って…。
長い時間が経ち、その間には色々な事があった。辛い事も悲しい事も…。
でも、その度に俺を支えてくれたのは、あの声だった。
自分らしく強く生きろと言ってくれた優しい声。
辛くなる度に空を見上げ、あの声を思い出していた。








ありがとう。
また会おうな。



















シゲさん。




end