おひさま

梅雨入りしましたね。雨といえば…でなんとなく思い出して、書いてみました。
怪談話はUSO?!でやってたのよね。懐かしい(笑)


【おひさま】



6月のとある日。
今日は久しぶりにシゲと二人でバラエティ番組のロケだった。



「よう降るなぁ」
シゲが運転席の窓から空を見上げてつぶやいた。


「梅雨だからね〜」
「しゃーないけど、このロケには辛いな〜」
「充電できないからねぇ。ま、行けるとこまで行こうよ」
「せやね」


今日は朝から雨だった。
後部席にどっさり吊るしてあるテルテル坊主も、さすがに梅雨には効かないらしい。



それでもだいぶ走って午後3時。
踏み切り待ちで車を止めると、斜め後ろから明るい歌声が聞こえてきた。


「あめあめふれふれ、かあさんが〜♪」


見ると、お母さんに手をひかれた小さな女の子が、楽しそうに繋いだ手を振りながら歌っていた。
赤い長靴を履いて、ピンク色の合羽。嬉しそうに足元の水溜りをばしゃばしゃやってる。



「かわええなぁ」
愛しそうに笑顔でその子の方を見やるシゲ。
母親が俺達に気づき、照れくさそうにおじぎした。


同時に遮断機が開く。
「ばいばーい」
「気をつけてね〜」
女の子に手を振ると、嬉しそうに振り返してくれた。



「かわいいね〜」
「せやねぇ。あの子には雨も嬉しいんやね」
「俺達にもあんな時代があったのかな」
「大昔な…」



なんだか自分達の年齢を実感してしまった…。
すると、シゲが呟いた。


「あの歌…なんやったっけ…あ、『あめふり』や」
「あぁ、さっきのね」
「歌詞、全部知ってる?」
「1番しかわかんねぇな…」
「実は5番まであるんよ」
「そうなの?」
「おん。でな、『あらあらあの子はずぶぬれだ。やなぎのねかたで泣いている』ってあるんやけど、それ歌うとずぶ濡れの男の子の霊が出るんやて。あっ、後ろ!」
「えっ?!」


静かな声で話していたかと思うと、突然大きな声を上げた。
ただの怪談話とわかっていつつ、思わずびくっとして振り返ってしまった…悔しい…。
シゲはそんな俺の様子を見て、愉しそうに笑っていた。



「噂でしょ?そんなの。なんかありがちじゃん」
「まあな」


俺が悔し紛れに言うと、シゲは笑って続けた。



「それにホンマは、主人公の男の子が雨の日にお母さんが迎えに来てくれてはしゃいでて、途中で傘を持ってない子を見かけて自分のを貸してあげる…っていう、雨の日だからこその触れ合いを描いた優しい歌なんよね」
「へ〜」
「でも、ちょっとこの歌、苦手やったな…」


声の調子が変わって、ハッとして見ると、シゲは少し寂しそうに微笑んでいた。


「…なんで?」
「傘を貸してもらった子はなんで泣いてたんかなぁ…って…。お母さん、迎えに来てくれへんかったんかなぁ?って…」
「そっか…」


そこまで考えてたんだ、アナタは…。


「お母さんにも都合があったのかもしれんし、もしかしたら、ちょっとおつかいに行って、帰ろうとしたら降ってきてもうたんかもしれんけど…。もしお母さんが来てくれなくて、そこで友達が傘を貸してくれたんやったら、素直に喜べるかなぁ、とか考えてもうて…」


そこまで考える事ないんやろうけど、と苦笑いした。



「お母さんが来てくれた友達に嫉妬しちゃうんじゃないかってことか」
「そういう所で、幽霊の話なんかが出来たんやろうね」
「なるほどね」




母子家庭で、女手一つで育てられたシゲ。
もしかしたら…雨に濡れて帰った事もあるんだろうか…。
余計なお世話とわかっていつつ、シゲの寂しげな笑顔を見ていると、ついついそんな事を考えてしまって…。
言わずにはいられなかった…。


「でもさ、」
「うん?」
「もし俺が傘を持ってて、シゲが柳の根方で泣いてたら、俺は貸さないね」
「へ?」
「シゲを俺の傘に入れて一緒に帰る」
「…なに言ってんねん」



俺がそう言い切ると、シゲは少し照れくさそうに笑った。
さすがに今のはクサかったか?そう思って、慌てて後を続けた。


「何かご不満でも?」
「男ふたりで相合傘かいな」
「じゃあいいよ。一人で帰るから」
「置き去りは嫌やわ」




アナタはやっぱり、そういう風に笑ってるのが似合うよ。
いくら梅雨だからって、アナタまで曇らないでよね。


俺達の“おひさま”なんだからさ…。


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このお話の原型はこちら…。